国家試験の時より必要な知識が多すぎて,
どうやって勉強すれば良いかわからない!
研修医・若手医師において感染症の勉強は必須です.
それは,将来どの専門科に進んでも感染症のない診療科はほぼないからです.
ただ,感染症内科がない施設で研修をしている場合などは,なかなか系統だって感染症の勉強がしにくいと思われます.
そのような場合は,内科や救急外来・外科研修中に出会った感染症に対して掘り下げて勉強するというパターンが多いと思われます.
ただ,学生の時より求められる知識が多く,さらに教科書通りの経過をたどらない症例が多いため,苦手意識から脱却できない若手医師が多いのも事実です.
そこで,ここでは初学者が一人で勉強できるわかりやすい本と,感染症診療で必須の本を紹介しようと思います.
- 1 感染症の医学書はどんなジャンルがある?
- 2 勉強用の必携・必見本【7冊】
- 3 日々の臨床で参照する本【3冊】
- 4 より深く勉強したい人のために【13冊】
- 4.1 <総論を詳しく> 抗菌薬の考え方,使い方 Ver.4
- 4.2 <総論を詳しく>感じる細菌学×感染症
- 4.3 <総論を詳しく> 感染症クリスタルエビデンス 治療編
- 4.4 <グラム染色> グラム染色からの感染症診断
- 4.5 <グラム染色+α>感染症プラチナアトラス
- 4.6 <診断>みるトレ感染症
- 4.7 <診断>病歴と診察で診断する感染症
- 4.8 <診断>トップランナーの感染症外来診療術
- 4.9 <その他各論>症例から学ぶ輸入感染症 A to Z ver.2
- 4.10 <その他各論>外来でよく見るかぜ以外のウイルス性疾患【電子版付き】
- 4.11 <その他各論>かぜ診療マニュアル 第3版【電子版付き】
- 4.12 <その他各論>亀田流 市中肺炎診療レクチャー
- 4.13 <その他各論>病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方 第2集
- 5 まとめ
感染症の医学書はどんなジャンルがある?
感染症の医学書は大きく分けて3種類です.
- ”感染症の考え方・診療についての基本”が主で,臓器別感染症・抗菌薬・微生物についての各論が少し書かれている本
- 微生物・抗菌薬・臓器別感染症について各論が詳細に書かれている本
- 日々の臨床で参考にする本(いわゆる抗菌薬の’用法用量’など)が書かれている本
これらを使い分けるのですが,
最初,勉強するときには①をお勧めします.
そして,診療する感染症の種類が増えてきた,感染症診療に慣れてきた時に②を使います.
③は別枠であり,日々の診療で使用する際にはほぼ必須です.
今回紹介するのは①と③ですが,より深く勉強するために②の本もお教えします.
勉強用の必携・必見本【7冊】
主に,感染症に対して初めに勉強するための本を紹介します.
絶対わかる抗菌薬はじめの一歩
お勧め度
少し古くなってしまった本ですが,感染症診療の考え方と抗菌薬について書かれています.
前半の感染症診療の考え方は一般的なものですが,要点が押さえてあるため感染症診療の流れが理解しやすくなっています.
その上で,後半に抗菌薬について書かれており羅列して特徴が書かれているだけではなく,まず最初に覚えるべき抗菌薬がグループとしてまとめられています.
このアプローチ方法でたくさんある抗菌薬をグループ化し,そこから各論に入っていくため初学者でもわかりやすくなっています.
(DYも後輩を教えるときはこの流れで覚えてもらっています)
古い分抗菌薬の内容がアップデートされていませんが,考え方について勉強するには最もお勧めできるため★5です.
感染症内科ただいま診断中!
お勧め度
こちらも前半の”感染症診療のアプローチ”が考え方・身体所見・グラム染色という項目で最低限押さえられており,基本を学ぶには十分です.
ただし,後半は特定の状況での考え方・アプローチとしてまとめられており,一般的な感染症(肺炎や尿路感染症,腹腔内感染症など)についてはあまり記載がありません.
タイトル通りですがあくまで診断についての本であるため,★4としました.
市中感染症診療の考え方,進め方 第2集
お勧め度
こちらは感染症診療の考え方については簡単にまとまっていますが,臓器別感染症については一般内科で見る範囲のほぼ全てをカバーしています.
頻度の多い感染症のマネジメントが取り上げられているため,研修中に担当した感染症について簡単に勉強したい時にこの本がお勧めです.
ただし,根本である基本的な考え方を勉強するには不向きのため,★4としました.
レジデントのための感染症マニュアル
お勧め度
感染症診療のバイブルです.日本で最も詳しくまとめられている感染症診療の本といっても過言ではありません.
レジデントのための,と書いてありますが医師人生で感染症の本はこれだけあれば十分なくらいの圧倒的な質と量です.
ほぼ調べ物として読むことが多いため,ある感染症・微生物・抗菌薬について調べるときに開くことが多いです.
ただし最初の章で感染症診療の考え方や抗菌薬・微生物についてもまとまっているため,こちらだけでも読み物として最初に読むことをお勧めします.
総合内科の医師からすると研修医必携と言いたいのですが,値段が高いため★4としました.
わかる抗菌薬
使いこなす抗菌薬
お勧め度
こちらは2冊とも同じ著者が書かれている本です.
”わかる抗菌薬”でイラスト中心に最低限覚えておくべき微生物・抗菌薬を勉強し,
”使いこなす抗菌薬”で症例ベースに昇華させていく,という本です.
最初に勉強する本としては「絶対わかる抗菌薬初めの一歩」と似ており,2冊セットで購入がお勧めです.
感染症まるごとこの一冊
お勧め度
「絶対わかる抗菌薬はじめの一歩」を書かれている矢野先生の本です.
感染症診療の基本的考え方と抗菌薬についてはその本と同じテイストで書かれていますが,
違いは微生物についてと臓器別感染症についても少し詳しく書かれているところです.
ワクチンについても取り上げられていますが,なかなか最新の知見までアップデートはしにくい領域であり,全体的に情報が古くなってしまいその分★3としました.
日々の臨床で参照する本【3冊】
ポケットサイズの本など,普段の診療に持ち歩く本を紹介します.
感染症レジデントマニュアル 第2版
お勧め度
少し古くなりましたが,日々の感染症診療で持ち歩いて参照するには十分な内容です.
主に感染症・抗菌薬・微生物についてまとまっており,この一冊で最低限必要な知識が手に入ります.
ただし,”基本的考え方”については記載が少ないため,別の本と合わせて読むようにしましょう.
幅広く記載があり持ち歩けるため★4です.
サンフォード 感染症治療ガイド
お勧め度
こちらは毎年更新されるアメリカの抗菌薬の本です.
抗菌薬の使用方法(用量や投与回数など)について参照するときに使いますが,
臓器別感染症・微生物について,ワクチンや暴露後の予防投与についてなど一般的な内容も網羅されています.
持ち歩く量を増やさないために,本での購入よりもアプリからの購入をお勧めします.
「PfizerPRO」に登録すると無料でブラウザ内で閲覧ができます.
サイトはこちらから→「PfizerPRO」
一般登録でサンフォードを利用すると月411円かかりますが,無料登録できるPfizerPROから閲覧すると無料です.
ただし,PfizerPROのメールマガジンなどの宣伝・広告がくることがあるのでご留意ください.
感染症プラチナマニュアル
お勧め度
こちらも毎年更新される,抗菌薬の使用方法からに関する本です.
サンフォードと異なり,日本の先生が書いておられるため日本にしかない抗菌薬の使用方法についても言及があります.
それ以外では,取り上げられている内容はほぼ同じです(感染症の基本も付録として載っています).
サンフォードかプラチナマニュアルのどちらかがあれば十分です.
より深く勉強したい人のために【13冊】
なぜなら,まずは感染症診療の基本的考え方や,抗菌薬・微生物の知識などある程度の基礎知識が必要なためです.
しかし,感染症をもっと勉強したい.各論でわかりやすい本はないかという声があり紹介させていただきます.
総合内科の目線からは全て★5くらいのお勧め度なのですが,研修医・若手医師向けとしてお勧め度をあえて下げています.
<総論を詳しく> 抗菌薬の考え方,使い方 Ver.4
お勧め度
岩田先生が抗菌薬の考え方・使い方について,深く掘り下げた本です.
最初に感染症の基本的考え方について解説されており,初学者向けでありこの部分はお勧めです.
抗菌薬の各論については,抗菌薬に少し慣れた段階で読んだ方が岩田先生の考え方などがすんなり入ると思います.
まさに「使い所」について書かれており,なるほどと思う部分が多いです.
初期研修医の最初に必携本で勉強し,その後に追加で読むことをお勧めします.
<総論を詳しく>感じる細菌学×感染症
お勧め度
とっつきにくい感染症を豊富なイラストでわかりやすく解説された本です.
微生物・抗菌薬・考え方から感染症法や細菌学の分野までほぼ全ての総論が網羅されています.
臨床感染症としての考え方がシームレスに書かれていないこと,抗菌薬については網羅的な分他の本と比較して少しとっつきにくいことから,★3としました.
ただし,細菌学として”深く”感染症のことが書かれている本は珍しいため,別の角度で勉強してみたい人・より深い視点で勉強したい人の追加の1冊としてはお勧めです
<総論を詳しく> 感染症クリスタルエビデンス 治療編
お勧め度
感染症プラチナマニュアルの岡先生とその共著者の,感染症治療におけるエビデンスをまとめたものです.
一般の本には全く書かれていないですが,実臨床での悩みどころの部分についてエビデンスに基づいた私見が書かれています.
一問一答のように明快に書かれているため,わかりやすいです.
ただし,初学者には向きません.感染症診療になれ,一般の本に書いていないような知識や診療のTipsが欲しい方にはお勧めです.
<グラム染色> グラム染色からの感染症診断
お勧め度
感染症診療で必須なのは,グラム染色です.
グラム染色について,写真豊富で解説されているわかりやすい本です.
施設内で自分でグラム染色できることは感染症診療において非常に重要です.例えグラム染色できなくとも,解釈や考え方を勉強するのに良い本です.
<グラム染色+α>感染症プラチナアトラス
お勧め度
こちらはグラム染色やコロニーなど,微生物検査室の目線で書かれた本です.
何よりも写真が多いことがお勧めポイントです.
実臨床よりも細菌学の要素が強いため,初学者よりも,感染症診療に慣れた医師や感染症が大好きな医師は面白く読めると思います.
まさにより深く勉強する人向けであるため,★3です.
<診断>みるトレ感染症
お勧め度
症例をベースに,診療の考え方や答えである感染症の解説が書かれています.
本のタイトルの通り,症例ごとに写真があることから文字だけの症例問題よりもインパクトがあり勉強になります.
様々な感染症が取り上げられており,興味深いものが多いです.
こちらも初学者向けではありません.感染症が好きな医師にはお勧めです.
<診断>病歴と診察で診断する感染症
お勧め度
こちらも症例をベースに,感染症の診断学について論理的に解説されています.
写真も多く,症例ごとに考え方と陥りやすい鑑別診断についても言及されています.
特に,system1とsystem2という診断学における考え方に分けて症例が取り上げられています.
<診断>トップランナーの感染症外来診療術
お勧め度
外来診療における,感染症診療の考え方について深く掘り下げた本です.
鑑別のポイント,押さえておくポイントと,感染症における解説に分けられています.
頻度の多い感染症(尿路感染症・感染性腸炎・肺炎など)における外来診療の考え方が書かれていますが,
抗菌薬の選択については少し疑問に感じる部分もあるため,様々な考え方の一つとして勉強しましょう.
ただし,症例の写真はあまりないです.
<その他各論>症例から学ぶ輸入感染症 A to Z ver.2
お勧め度
日本で遭遇しうる輸入感染症について取り上げた本です.
各感染症についてのTipsはもちろんのこと,一般診療医における輸入感染症の苦手感を払拭してくれます.
輸入感染症を考えた時のアプローチ方法(=考え方)と,それぞれの感染症の診断・治療に至るまでの解説があります.
会話形式で展開しているため普段の診療の流れがわかりやすいですが,系統だって書かれていないため慣れるまで少し時間が必要です.
輸入感染症を勉強し始めたいという方にお勧めです.
<その他各論>外来でよく見るかぜ以外のウイルス性疾患【電子版付き】
お勧め度
研修医になり一般細菌について勉強することが多いですが,ウイルス疾患についてはあまり触れる機会もなく勉強しにくい領域です.
この本はタイトル通り,ウイルス性疾患についてアプローチ方法と各論,症例別でまとまっています.
頻度が多いものが簡潔にまとまっており,最初に勉強する時に手軽に始められます.
<その他各論>かぜ診療マニュアル 第3版【電子版付き】
お勧め度
風邪は頻度が多く,出会った症例で勉強することが多いですが,なかなか指導という形で教えてもらう機会は少ないと思います.
この本はよく出会う風邪について,根拠に基づいてアプローチ方法・対応・緊急疾患を見逃さないポイントがまとまっています.
研修医であれば救急外来で診療するときの自信がつくと思います.
ただ,新型コロナウイルスが流行する前の本であるため,今の知見を入れるとなかなか難しい診療領域となってしまいました.
<その他各論>亀田流 市中肺炎診療レクチャー
お勧め度
頻度の多い感染症である,「肺炎」について呼吸器内科と感染症内科の両面でアプローチされた本です.
肺炎について,検査・治療・予防について詳しく解説されており日頃疑問に思っていることのほとんどはこちらで解決できます.
<その他各論>病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方 第2集
お勧め度
上で紹介した,「市中感染症診療の考え方,進め方」の’院内/免疫不全’版です.
院内での発熱や特殊な状況(手術後・肝硬変・免疫不全)における発熱の考え方や耐性菌についてが解説されています.
「市中~」と同様にお勧めしたいのですが,免疫不全関連は感染症の基礎を学んでからのステップですので,★3としました.
まとめ
感染症は基本的な考え方を身につければ,あとは知識と経験ですぐに苦手意識がなくなります.
アプローチの方法など初学者向けの本から,各論の本まで31冊を紹介しました.
ぜひ参考にしてください!
まずは初学者向けの本を読みます!