色んなことを同時に言われるから何からして良いかわからない…
どうしたら救急の研修がストレスなくできるかな?
こんなの本に書いてないしなあ…
救急専門医のDYが
救急研修を効率良くする4つの方法を教えます!
研修医になり,救急外来での勤務・研修はいかがですか?
今まで色々な研修医を指導してきましたが,救急外来が「好き」な研修医と「苦手」な研修医に分かれるな〜といつも思っていました.
DYは研修医に「救急外来で楽しく勤務してもらえる」ように,動き方や考え方などのテクニックを教えてきました.
ここでは,これから研修医になる方や研修医になって救急外来に苦手意識がある方へ,
少しでも苦手意識がなくなるよう考え方などをまとめましたのでご覧ください.
まず,救急外来の役割とは?
研修医の間は救急外来での研修は必須です.
救急外来での研修や当直など,研修中最も滞在している時間が救急外来でしたという方は少なくないと思います.
その救急外来は大きく2つの役割があります.
これら2つの役割を,時間軸(=なるべく早く)を意識しながら診療しなければなりません.
①緊急性のある疾患を見逃さないようにすることは当たり前であり,ここでは深くは触れません.
ただ,上級医や指導医の先生が無意識的にしていることは②の後者です.
患者さんが来院する前/した瞬間から,「この人は帰宅ができるのか?」を見極めながら診療をしています.
帰宅ができない状況=入院が必要であるため,診療内容と患者さんへの説明が変わります.
これを早く見極めるようになれば,診療スピードがグッと早くなります.
入院が必要な状況とは?
入院が必要な状況は大きく2つです.
特に後者についてがグレーゾーンですが,具体的に言語化すると,
緊急性はないが,ADLが低下しており自宅や戻り先で生活できない
ということです.「社会的入院」という言い方をされることもあります.
入院が必要であれば,施設によって必要な検査などが変わったり追加する必要があると思います.
この状況を判断できれば,少しでも早く転帰を決めることができます.
救急外来では,これらの役割を果たすためにいかに時間をかけず最大限のパフォーマンスを行えるかが勝負となります.
マルチタスク,要は複数のことを考えながら動けるようになれば非常に楽になります.
研修医や若手医師が救急外来を苦手に思う原因として,大きく4つを挙げました.
①場所や人間関係に慣れない
②症候別に落とし込めず,検査などの診療がフラフラしてしまう
(1人の診療に数時間かかってしまう)
③検査結果の解釈に時間がかかる
④病状説明の時に,いかに自信を持って説明ができるか
【アドバイス①】場所と人間関係に慣れる
これはすぐにできるものではありませんが,どこでも同じかと思います.
ただ,救急診療というストレスの中,場所や人間関係でもストレスが重なると誰でもパフォーマンスは落ちます.
早く慣れましょう,という言ってもできないですが,こればかりは時間がかかると思います.
簡単なアドバイスを以下にあげておきます.
- 場所
診察器具がある場所や,カルテを置く場所,自分で行う検査(エコーなど)の場所を覚える
患者さんをたくさん診ることで体に染み込ませましょう
- 人間関係
特に看護師との関係性は重要です.
大事なことは,「相手を名前で呼ぶ」ことと「覚えてもらう」ことです.
どこでもそうですが多職種で連携しなければ救急外来は回りません.でも医師の指示が通らなければ連携なんてもってのほかです.
それを円滑にするために上の2つが重要です.
①当直など日々の勤務に入る時,終わる時に最低限救急外来のリーダー看護師に挨拶を
「研修医の〇〇です.今日はよろしくお願いします」という一言だけでかなりやりやすくなるでしょう.
②指示を出す担当の看護師には必ず名前で呼び,きちんとコミュニケーションをとる
③業務中,自分が動ける範囲で患者のケア・搬送の手伝いをする
小さなことですが,少しずつの意識を払うだけで診療ストレスがかなり減ります.
ただ,研修医相手に指示を出す看護師もいますが,こればかりは(社会人として)グッとこらえながら対応するほかありません.
【アドバイス②】症候別に落とし込む
ここが最も重要で,これをスムーズにできれば診療が早くなること間違いなしです.
救急外来は緊急性の有無を最初に判断する必要がありますが,これを行うためにはいかに症候別に落とし込み,その中で除外していくことが重要です.
主訴:めまい
診察では耳鳴りや眼振はないな,頭の検査に進みます
病歴を聞くと実はめまいではなく気を失いそう前失神だから,失神として診察・検査して行こうか
(よくありすぎてめまいの診療の最初に失神でないことを確認する,と書かれていますね)
要は,症候別として走り出すときに,方向を間違えないようにするということです.
特に,研修医が悩む状況は3つかと思います.
<悩ましい例1>主訴を勘違いするパターン
これは病歴をよくよく聞いて診察しましょう.
特に患者さんの訴えを医学的な言葉に置き換えをする時に勘違いが起きるため,様々な聞き方や実際の診察で確認することをお勧めします.
<例>
主訴:右胸が痛い
心電図とレントゲンを撮ります!
一緒に診察をしようか右胸だけど,自分で指さしてもらったらほぼ右上腹部だった
腹痛(+念のため胸痛)として診療して行こう
これもたまにあります.
訴えと診察で部位が違うことや,訴えを変換し間違えてしまうことは注意深く問診と診察をすれば回避できます.
<悩ましい例2>主訴が多く絞れないパターン
たまに,訴えが多い方がいます.
<例>
主訴:しんどい,頭が痛い,足が痛い,めまいがする
DY先生一緒に診察してください!
〇〇さん
たくさんお辛いことがあると思うのですが,
今日救急外来を受診しようと思った一番のお困りのことはなんですか?
いつからかはっきりしない訴えであっても,「救急外来を受診しよう」と思った一番の理由を聞き,それを掘り下げることで症候を絞ることができます.
発症からの時間経過が長い方に対しても,上の質問は有効です.
要は,最も辛い症状に対して症候別に落とし込み鑑別や検査などを広げていくという手法です.
(他の訴えを落としていいわけではないですが,あくまで特定の症候別で走り出すためのきっかけとしてください)
<悩ましい例3>主訴がぼんやりとしているパターン
これもよくあることかと思います.
主訴:しんどい
(これ以上何も言わないな…どうしよう?)
〇〇さん
何があってしんどいですか?
ただ単にしんどいか,熱や痛みがあってしんどいなど,
何かしんどくなる原因やきっかけはありますか?
要は,「何か別の主訴がある」→「しんどい」を見逃さないようにすることです.
しんどい原因が発熱であれば,そちらを解決すればしんどさも取れるでしょう.
うまく訴えができない方であればバイタルサインも参考にしましょう(発熱に気がつかない方もいます).
どう聞いても,「ただ単にしんどい」だけであれば,「全身倦怠感」として広くアプローチをしましょう.
この場合はより丁寧な診察とある程度の検査が必要になってきます.
症候が決まった後の注意点
症候が決まった後の注意点は,それに固執しないことです.
ある症候として走り出したとき,その症候で見落としやすい疾患/病態はまず除外にかかると思います.
その上で,
(この訴え・病歴であればこの症候も考えられるから,それで見落としてはいけないものも確認しておこう)
と思いながら走りましょう.
<例>
主訴:喉が痛い
でもあまり痛がっていないし場所がおかしいな
(喉の下・胸骨の上のほうを言う)
幅広く「胸痛」で見逃してはいけないものも一応考えて心電図も取ろうか
→心筋梗塞だった
このような例もあります.
そして,診察や検査の結果で別のものが疑われる場合には,素早く切り替えましょう.
血液検査や画像検査などで別の疾患が判明することは何年救急をやっててもあります.
慣れないうちや訴えが曖昧であると,検査に頼りがちになり病歴聴取と診察に自信がなくなってきてしまいます.
最低限の検査で緊急疾患の除外を行う
検査に頼るシーンももちろんありますが,
「検査がないと診療できない医師」にならないようにするためにも,自分の病歴・診察・考え方と転帰をすり合わせるようにしましょう.
(下に詳しく書いています)
【アドバイス③】検査結果は出る前に予想しておく
これも診療をスムーズにするテクニックです.
全ての検査は,何かを疑って/除外したくて行うものです.
いわゆる,検査前確率と検査の感度と特異度と...という話になりますが,難しい話はここではしません.
要は,
「検査を行う時には,常に結果を予想しておく」
「予想のために,鑑別などの”考え”を持っておく」
ことが重要です.
予想することで,2つのメリットがあります.
①結果が出たと同時に,次の検査や方針などすぐに動ける
②自分の診療と検査結果がついてくるようになる
これらを例に挙げて解説します.
<あまりよくない例>
主訴:全身倦怠感
とりあえず血液検査を出すか…
血液検査結果→Na:123mEq/L
低ナトリウム血症だった!
へー
<好ましい例>
主訴:全身倦怠感
「全身倦怠感」に対して救急外来の血液検査で確認できることは,
貧血,電解質異常,肝機能異常,腎機能異常かな?
その上で,診察では特にはっきりした所見なし,
毎日お酒をたくさん飲むと言っていたから,
あり得るのは
電解質異常(低ナトリウム血症)や肝機能異常かな...
血液検査結果→Na:123mEq/L
といった違いです(ここまで丁寧にやる必要もないですが).
なんとなくの検査をすると,結果が返ってきた時に大慌てしますし,
そもそもどの検査を出そうか?といったことも考えなくなります.
- 検査を出す前に考えておくこと
この検査をしよう)
と考えながらすることで,次のアクションに繋げられます.さらに,
- 検査結果が出た時に自分の診療を振り返るようにする
この場合は血液検査はいらなかったのか〜)
画像検査でこの結果になるのか!)
と自分の診療を経験値として吸収することができます.
この考えのもと経験すればするほど,次に診療するときの検査の幅を変えることができます.
この2つのメリットは大きく,救急外来の診療スピードが早くなるだけではなく,
「検査がなくても病歴聴取と診察である程度の見立てができる」医師になることができます.
(上と同じ内容ですね)
※全ての所見を予測する必要はありません.
疑ったものについて予め枝を広げておく,というイメージで十分です.
という気持ちもあるかと思いますが,忙しい中で考えることでマルチタスクがこなせるようになり,素早い判断ができるようになっていきます.
カルテを書く,検査の指示を出すなど目の前のことにいっぱいいっぱいになってしまいがちですが,診療の原点に立ち返って考える癖をつけましょう.
また,血液ガスやCTなどの画像検査は解釈そのものにテクニックがいります.
それは各論の内容ですので,本や実臨床での指導で経験・勉強していきましょう.
【アドバイス④】自信をもって病状説明を
こちらは,「初期研修2年間を効率良くこなす心構え」でも述べました.
病状説明は医師として現場に出ている間ずっと行うものです.
最初は難しいですが,指導医と一緒に説明に入る際の言葉遣いや言い回し・雰囲気などを盗みながら.自分なりの病状説明ができるようになっていきます.
「思います」
ではなく
「考えられます」
という言い回しです
(詳しくは記事で)
まとめ
救急外来で効率よく働くために,というテーマでアドバイスさせていただきました.
抽象的な部分もあり,すぐに自分のものにすることは難しいですが,
なるべくわかりやすく言語化しました.
みなさまの中の日々の診療で少しでもこれらの考え方が活きて,救急外来への苦手意識がなくなればと思います!
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